2018年3月26日月曜日

八角理事長、逆風覚悟の続投 相撲協会

◇「負の遺産」処理に追われた2年

【特集】風化させるな 大相撲事件史~繰り返される仰天騒動~

 26日、日本相撲協会の理事長に八角親方(元横綱北勝海)が再選された。就任記者会見では、暴力根絶をはじめ多くの課題を挙げて相撲文化継承の使命と意欲を表明。一言ずつに力を込めて語ったが、実質2期目の新たな船出は、さっそく3日後に貴乃花親方(元横綱)の処分決定という大一番も待っている。
 両国国技館で行われた記者会見。口下手な八角理事長(元横綱北勝海)が、途中からメモを見ず、顔を上げて決意を語った。「暴力問題の根絶に取り組むことが第一課題だと強く認識しています」と語り始め、ファンサービスの充実、相撲文化の普及・継承、稽古の充実などを挙げ、親方衆の奮起を促した。
 「私自身、15歳で北海道から出てきて、時には失敗もしましたが、怒られながら育てられました。今、力士が失敗を恐れて何もできない状況が続いていますけど、親方衆の力を借りて、立派な力士をたくさん育てることが私たちの役目。力士になりたい子どもが増え、強くなったら親方になりたいと、そういう相撲協会にしたいと思います」
 八角理事長は2015年に北の湖前理事長(元横綱)が在職中に死去した後、理事長代行を経て後任理事長となり、16年の役員改選では理事長互選で貴乃花親方を抑えて選ばれた。在任2年余。実質的には今回が2期目となる。
 就任直後、北の湖前理事長時代に業務委託した顧問との契約を解除した。この元顧問の在任中に発生した様々な金銭疑惑などが浮上。事実関係の調査や訴訟準備に、多くの時間と労力を割かざるを得なかった。そこへ起きた昨年11月の元日馬富士による傷害事件、貴乃花親方の対決姿勢、式守伊之助や大砂嵐の不祥事。
 2月の理事候補選挙の後、八角理事長は「この2年、前向きな課題に取り組みたくでもできなかった」と漏らした。決意表明にはそんなじくじたる思いも込められている。
 これまでも語ってきたことではあるが、ファンサービスの拡充では、今日の観客には座りづらい升席の見直しも視野に入れること、土俵の充実では、試験的に取り組んでいるリハビリ施設整備の前進などに触れた。
 この日、評議員会で承認された2017年度決算では、事業収益が前年度比5憶7800万円増となった。うち入場券売上が1憶8700万円増、巡業興行契約金が3100万円増。他は映像使用料、広告、グッズ売上などによる収入増で、人気回復と親方ら協会員の営業努力の反映と言える。
 現在も東京都内の女子大と連携してグッズを開発する取り組みなどが、進んでいる。八角理事長は「もっとファンが力士を身近に感じられる環境づくりをしたい」と語った。28日には9人の親方理事をはじめ全親方の職務が決まり、本格的な新八角体制が船出する。

◇波紋読めない貴乃花親方の処分
 しかし、翌29日の臨時理事会には、いきなり大きな難題が待ち構える。弟子が春場所中に暴力沙汰を起こし、場所前に内閣府へ提出していた告発状を取り下げる意向を示している貴乃花親方の処分だ。
 今回は理事会で処分を決める前に、28日に役員以外の親方で構成される年寄会(会長・錦戸親方=元関脇水戸泉)が開かれ、貴乃花親方を呼んで昨年来の行動・言動について説明を求めることになっている。「一兵卒になってみなさんと協力していきたい」と言っている貴乃花親方だが、一連の振る舞いに親方衆の怒りは静まっていない。ベテラン理事は「年寄会から(解雇など)激しい処分を求める意見が上がってくることもあり得る。その時にどうするか」と腕を組む。
 年寄会の直後に、職務任命のため役員も加わる年寄総会が予定されており、そこで貴乃花親方の処分が話題になって合意形成が図られる可能性もあるが、どんな処分を下しても、協会内外に広がる波紋は読み切れない。
 昨年来の不祥事続きに、貴乃花親方の対決姿勢演出が加わり、八角理事長の辞任を求める声も上がった中での続投。その点を聞かれた理事長は、「(不祥事の連続は)申し訳なく思っています。また、こういう問題を一つ一つ解決するのが私の役目だと思っています」と厳しい表情で答えた。
 時津風部屋の力士死亡事件などに続き、弟子の大麻問題があって辞任した北の湖理事長、複数の逮捕者も出た大規模な野球賭博事件で辞任した武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)と同列にはできないが、そうした世間の目とは別の意味で、協会内の政権基盤も盤石とは言い切れない。全会一致の続投は、貴乃花親方への反発が生んだ一面もあるからだ。
 協会批判の急先鋒だった貴乃花親方が「白旗」を上げたことで、かえって協会に物を言いにくい空気が生まれるようでは、課題解決もおぼつかない。いまだに既得権益を抱え、兄弟子風を吹かす親方もいる。若くとも、自分の仕事をしっかり勤め、礼と理を持って意見を述べる親方の声が聞いてもらえるような運営が求められる。
 八角理事長の続投と、新体制を支えるべき全協会員の危機感が本物かどうかは、実践でしか証明できない。前日の春場所千秋楽、恒例の協会挨拶に客席から身を乗り出して声援と拍手を送る観客が大勢いた。裏切りが続けば大相撲の将来はどうなるか。まずはその想像力から問われる。(時事ドットコム編集部)(2018/03/26-21:00)

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