<巨人8-4阪神>◇3月31日◇東京ドーム
巨人の栄光を知る英雄が今季初勝利をもたらした。阪神との開幕第2戦は4点のビハインドから打線が粘って逆転。5-4の8回はメジャーから10年ぶりに復帰した上原浩治投手(42)が3者凡退で締めた。代打阿部慎之助内野手(39)は執念の押し出し四球を選び、クールな高橋由伸監督(42)はガッツポーズを爆発させてムードをあおった。開幕戦はエース菅野で落としたが、“感情ジャイアンツ”となって4年ぶりの覇権奪回へ発進した。
無数の手が視界を覆った。10年ぶりの復帰登板を終えた上原がベンチに突進する。荒々しく手のひらを合わせた。初勝利を手繰り寄せる投球に仲間がしびれた。42歳も感情をぶつけた。「このスタイルでやっている。変えられない」。レッドソックス時代、野性派集団に身を投じ「ハイファイブ」の儀式で仲間の絆を得た。あの光景を再現した。
勝ち越し直後の8回、東京ドームに登場曲「sandstorm」(サンドストーム)が流れた。大歓声でウグイス嬢の交代のコールがかき消される。好調の大山にいきなり宝刀を抜き、スプリットで空を切らせた。間を置かずスピンの利いた直球で空振り。締めはシュート気味のスプリットで3球三振。糸原、高山も打ち取り、11球で終わらせた。オープン戦で届かなかった最速140キロに半分以上の6度の空振り。「ホッとしたのと次の回を投げんでええなと」。重圧を超え、阿部の肩をもみながら終了の整列に並んだ。
阿部も逆転への空気感を醸し出した。岡本に開幕一塁を譲った。6回無死満塁の代打で今季の初陣となった。左腕岩崎にフルカウントから執念の押し出し四球を選び、雄たけびを上げた。「緊張した。チームが勝てて良かった」。短く握ったバットに、岡本の初安打に拍手を送る姿に背負う使命の重さが詰まっていた。
2人と長らく巨人を支えた指揮官も魂を発散した。高橋監督が顔を変えた。7回、小林の勝ち越し打に右拳を激しく動かした。就任3年目。グラウンドでここまで感情をさらけ出すことはなかった。そのことを問われると「昨日のみんな(報道陣)の一言に怒ったから」。前日、オープン戦の不振から一転、2安打した正捕手について「開幕前は全然だった? 失礼な!」と切り返した。その問答を引き合いにガッツポーズの思いをケムに巻いた。
前夜から違った。開幕セレモニー。大トリで外野奥から現れると、右翼席ファンを突き上げる拳で何度もあおった。敗れたが、懸ける思いがにじみ出ていた。
激闘を終え、投打の切り札への期待感を口にした。「ここぞで上原、阿部は頼りになる。初勝利はうれしいが、まだ始まったばかり」。冷静な顔に戻ったが、盟友の変化を感じているのは上原だった。「監督は喜怒哀楽をあまり出さない人。勝ちたい思いが上回ってああいう感情が出たのでは」。巨人が変わろうとしている。戦いに熱がある。中心に栄光を知る3人がいる。【広重竜太郎】
▼42歳11カ月の上原が日本復帰初登板でホールドを記録した。巨人投手の最年長登板は06年7月6日工藤の43歳2カ月だが、ホールドは10年6月10日豊田の39歳10カ月がこれまでの最年長記録。上原が豊田を抜き、巨人の40代投手では初めてホールドをマークした。巨人投手の最年長勝利は06年5月3日工藤の42歳11カ月、最年長セーブは90年6月22日加藤の40歳6カ月で、上原が球団の年長記録を今季中にいくつ更新できるか。なお、最年長ホールドのプロ野球記録は、横浜時代の工藤が09年9月20日にマークした46歳4カ月。

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